· 事業の軸と核 · 11 分で読めます

第6話

「伝えたいことは多いんですけれども、どうやって軸を通せばいいのか」

言葉が、来る人を選んでいます

「伝えたいことは多いんですけれども、  どうやって活動の軸を通せばいいのかが、わからないんです」

ある女性経営者の方から、札幌のホテルのカフェでこうご相談をいただいたことがあります。

やることがない方ではありません。むしろ逆で、教育、講座、食、家庭。いくつもの領域で、すでに実績を積み上げてこられた方でした。

多すぎて、絞れない。

よく聞く悩みだと思います。

軸が通っているかどうかは、来る人を見れば分かります

軸を決めるとは、やることを絞ることだ。

たいていは、そう考えます。あれもこれもやっているから伝わらないのだ、一つに絞れば伝わるはずだ、と。

ところが、絞っても伝わらないことがあります。

逆に、やっていることは何も変えていないのに、急に伝わり始めることもある。

だとすれば、問題は数ではありません。

では、何を見れば、軸が通っているかどうかが分かるのか。

自分の発信を見ても、分かりません。書いた本人には、いつでも筋が通って見えるからです。

来た人を見るのが、いちばん早いと思います。

どんな人が集まってきているか。どんな相談を持ち込まれるか。そこに、自分が出している言葉の答えが出ています。

これは私自身が、かなり遠回りをして学んだことでした。

ランチェスターの言葉を、そのまま使っていました

もともと私は講師業をしていて、そこからコンサルタントとして独立しました。

自分の強みは何か。どこに立てばいいのか。独立するときに誰もが考えることを、私も考えました。

そのときに行き当たったのが、ランチェスター戦略です。

小さな会社が、どこで勝ち筋を見つけるか。強者と同じ土俵に乗らず、狭い領域に集中して一番を取る。中小企業や個人事業主が最初に読む本として、いまも定番だと思います。

私自身、この考え方には助けられました。

友人と共著で出した本を売るときに、この戦略を使いました。結果としてAmazonで一位、東西の書店ランキングでも一位を取り、その後も長く売れ続ける本になりました。

使い方としては、間違っていなかったと思います。

問題は、そこに出てくる言葉のほうでした。

もともとは、戦争の言葉です

ランチェスター戦略は、もとをたどれば軍事研究から来ています。

ですから、出てくる用語がそのまま戦争の言葉です。戦術。作戦。攻略。

私はそれを、ほとんどそのまま使っていました。案内文にも、当時のチラシにも、並べて書いていました。

おかげさまで、と言っていいのだと思います。

個人事業主の方だけでなく、スタッフや事業部を抱えている経営者の方から、ご相談をいただくようになりました。仕事としては、明らかに一段上がりました。

ところがある時期から、ふと気づくことがありました。

来る方が、その言葉に親しんでいました

お話ししていると、同じ種類の言葉が返ってくるのです。

ライバル。潰す。叩く。

最初は、業界の慣れた言い回しだろうと思っていました。ただ、何人か重なってくると、それだけではないことが分かってきます。

言葉遣いだけの話ではありませんでした。社内の空気にも、それが出ていたのです。

上から押さえつけることで回っている。異論が出ない。いまで言えば、少し行きすぎた昭和のガバナンスとでも言うのでしょうか。

自分の質問で、気づきました

はっきり引っかかったのは、当時、顧問先であった定例の役員会議の席でのことです。

社長と役員の方が、事務的にこんな会話をされていました。

「あと、誰々が来月で辞めます」

とくに驚くふうでもなく、次の議題へ移ろうとされている。

私は流れを止めて、聞きました。

どの部署の方が、辞められるんですか。

答えを聞いて、もう一つ聞きました。

御社では、年間の新卒採用と中途採用、それから退職者は、それぞれどれくらいですか。

返ってきた数字を聞いて、思いました。

少し、多いな。

自分の質問が、自分に気づかせた形です。聞くまでは、私も同じ会議室で、同じ議題に乗っていました。

売上は上がっていました

誤解のないように書いておきますが、成果は出ていました。

売上も、利益も上がっていた。ご依頼としては、何も問題がありません。

ただ、そういう会社が一社ではなく、いくつか重なってきたときに、考え込むようになりました。

私は、人がどんどん辞めていく会社を、支えているのではないか。

数字を伸ばす手伝いはしている。けれど、その数字が出ている場所で、人が減り続けている。

これは私が力になりたかったことだろうか、と思いました。

そして、はっきりしたことがあります。

この方たちを呼んでいたのは、私の言葉でした。

親友の一言

もう一つ、決め手になった出来事があります。

二十年来の親友に、別の東洋の体系を使って、経営者向けの講座をやっている男がいます。

もう何年も続いている年始に、その年のお互いの抱負を語る「マスターマインド」食事会の席でした。

そこで彼が講座の名前を変えたときの話を聞きました。名前から「ビジネス」という語を外し、「社長の」に変えた。それだけで、来る人が変わったというのです。

その体系そのものを学びたい人ではなく、それを会社のマネジメントに使いたい人が来るようになった、と。

そして私に、こう言いました。

学習意欲のある人ではなく、経営に使いたい人に来てほしいのなら、「社長の気学」がいいのではないか、と。

当時の私は「気学アカデミー」、次に「ビジネス気学アカデミー」と名乗っていました。

アカデミー、という語を選んでいる時点で、私は学びたい人に向けて発信していたわけです。

なるほど、一理あるな、と思いました。

「戦略」だけは、残しました

そこから、好戦的な言葉を一つずつ外していきました。

ただ、一語だけ残したものがあります。

戦略、です。

いまも一行のプロフィールには、戦略気学コンサルタント、と書いています。

残した理由は、はっきりしています。

九星気学は、占いだと思われているからです。

何も足さずに気学と名乗れば、当たるかどうかを聞きに来る方が集まります。第1話に書いた通り、それは私がやりたいこととは違います。

戦略という一語は、その誤解に対する断り書きです。これは当てるための道具ではなく、経営の判断に使う道具です、という宣言のつもりで置いています。

つまり、あの一語だけは、戦うために残したのではありません。

占いとして扱わない、と言うために残しました。

絞るのではなく、一段上げる

では、軸はどうやって定めるのか。

ご相談を受けるとき、私は「何を捨てますか」とは聞きません。

捨てる話から入ると、たいてい決まらないからです。どれも理由があってやってきたことですし、どれかを削ることは、これまでの自分を否定することに近くなります。

聞くのは、逆です。

いま何をやっているのか、全部教えてください、と申し上げます。

全部並べてから、一段上げる

やっていることを、大小を問わず並べていただきます。

そのうえで、抽象度を一段上げます。

結局、誰の、どういう人生を変えたいのか。

ここが見えてくると、景色が変わります。

並んでいた活動が、目的ではなく手段に見えてくるのです。

あれもこれもやっていたのではなく、一つのことを、いくつもの手段でやっていた。順番が逆だっただけです。

だから、絞る必要がありません。

軸が一本通れば、活動はそのままで、全部が道具になります。

そして、言葉が来る人を選びます

軸が決まると、名乗る言葉が変わります。

そして、ここからが本題です。

言葉は、意味を伝えるだけのものではありません。

誰に向かって開いているかを、同時に伝えています。

アカデミーと名乗れば、学びたい人が来ます。戦術と書けば、戦いたい人が来ます。社長と書けば、社長が来ます。

こちらが選んでいるつもりで、実は選ばれています。

第2話で、独立した直後に大きなお金を探していたら、同じように大きなお金を探している人が近づいてきた、という話を書きました。

あれと、同じことです。

自分が先に出したものに、同じ質のものが応じてくる。欲でも、言葉でも、変わりません。

気学は、ここで何を見ているのか

軸のご相談で、気学が役に立つのは、本人が近すぎて見えない部分です。

その方がどういう場所で力が出るのか。前に立つ人なのか、支える人なのか。何を受け継ぎ、何を渡す役回りにあるのか。

やりたいことと、力が出る場所は、必ずしも一致しません。

ご本人は、やりたいことのほうしか見えていないことが多い。近すぎるからです。

外から一本、補助線を引く。やっていることはそれだけです。

答えを与えているのではありません。すでにあったものの輪郭を、なぞっているだけです。

検算は、来た人でします

軸が正しいかどうかは、自分では判定できません。

言葉を変えてから、誰が来るようになったか。どんな相談が増えたか。

そこを見ます。

私の場合は、はっきり変わりました。ちょうど福岡の糸島に引っ越したくらいのタイミングです。

「ライバルを潰す」、という言葉を使う方は、ほとんど来られなくなりました。

代わりに来られるようになったのは、会社を大きくしたい方というより、会社をより良くしたい方です。

売上も、社員も、顧客も、家族も、地域も、次の世代も。この会社があることで、周りが少し良くなっていく。そういう経営を目指しておられる方と、いまは仕事をしています。

名前を変えただけで、そうなったとは思いません。

ただ、名前を変えなければ、そうはならなかったとも思っています。

活動は、一つも減らしていません

ご相談を受けた方すべてのその後を、存じ上げているわけではありません。ですので、これは私が知り得た範囲の話です。

冒頭の女性経営者の方に戻ります。

伝えたいことは多いが、どうやって軸を通せばいいのか分からない。

まず、やっておられることを全部伺いました。

子ども向けの教育、大人向けの講座、食に関わる活動、家庭や子育ての領域。どれも思いつきではなく、長く続けてこられたものばかりでした。

一つひとつは筋が通っている。ただ、並べると散らばって見える。

ご本人も、それが分かっているから困っておられました。

一段上げてみました

そこで、どれを残すかという話はしませんでした。

全部を一度、手段として横に置いて、その上で伺いました。

結局、誰の、どういう人生を変えたいのですか。

やりとりを重ねるうちに、出てきた言葉があります。

日本に古くからある知恵や叡智を、お母さんを通じて、未来の子どもたちに伝えていきたい。

これが出てきた瞬間に、並んでいたものが繋がりました。

教育も、講座も、食も、家庭の話も、全部その手段だったのです。

何も減らしていません。抽象度が一段上がっただけです。

そのあと

軸が一本決まると、そこから先は早いものです。

その方はマーケターの方と組んで、新しい一行のプロフィールを作られました。

そして、単発の講座から、一年かけて伴走する本講座へと設計を変えていかれました。

単発でよかったものが、なぜ一年になるのか。

伝えることが目的なら、単発で足ります。継ぐことが目的なら、一年でも足りないからです。

軸が変わると、商品の形まで変わる。

何がどれだけ効いたのかは、私には分かりません。マーケターの方の力も大きかったはずです。

ただ、あの言葉を口にされたのは、ご本人でした。私はそれを、外から聞いていただけです。

あなたの発信には、いまどんな方が集まっていますか。

その方たちは、あなたが本当に力になりたい相手ですか。

自分では近すぎて見えない核を、外から一本の線として引く。軸のご相談で、私がやっているのはそれだけです。

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    よくある質問

    やりたいことが多いのですが、絞らないといけませんか

    絞る前に、一段上げてみてください。やっていることを全部並べて、結局それは誰の何のためにやっているのかを考える。そこが一本になれば、活動はそのままで手段に変わります。数が多いこと自体は、問題ではありません。問題なのは、それぞれが別々の目的を持っているように見えることです。絞るのは、上げてみて、それでもはみ出すものがあったときで足ります。

    名前や肩書を変えると、これまでの人が離れませんか

    離れる方はいます。私の場合も、以前よくご相談をいただいていた層の方は、ほとんど来られなくなりました。ただ、それは失ったというより、選び直したということだと思っています。名前を変えるというのは、誰に来てほしいかを決め直すことなので、来る人が変わらなければ、変えた意味がありません。怖いのであれば、いきなり全部を変えず、まず一行のプロフィールだけ変えてみるという手もあります。

    自分の軸が定まっているかどうかは、どう確かめればいいですか

    発信を読み返しても分かりません。書いた本人には、いつでも筋が通って見えるからです。確かめるなら、集まってきている人を見てください。どんな方から声がかかるか。どんな相談を持ち込まれるか。そこが自分の意図とずれているなら、軸ではなく、使っている言葉のほうを疑ったほうが早いと思います。

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