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第2話
「ウチの役員人事、もうどうやって手を付けたらよいのか」
短所は、置き場所を間違えた長所です
「ウチの役員人事、もうどうやって手を付けたらよいのか……」
3年前の春、京都の祇園にある小料理屋でした。ご主人が一人で切り盛りされている、カウンターだけの小さな店です。
東大阪で会社を経営されている女性が、疲れ切った表情で、そう言われました。
二期連続の赤字。銀行からのプレッシャー。すでに別の経営コンサルタントの方も入っておられました。収支計画は緻密で、努力を惜しむ方でもありません。
それでも、結果が出ない。
数字の話をしに行った席で、最後に出てきたのが、人の話でした。
能力は測れます。けれど、組み合わせは測れません
人は、能力と実績で選ぶもの。
採用でも、役員人事でも、業務委託でも、たいていはそう考えます。何ができる人か、何をやってきた人か。判断材料としては、これが最も確かに見えます。
ただ、能力は一人ひとりについて測れますが、組み合わせは測れません。
優秀な人を集めたのに噛み合わない。前の会社では活躍していた人が、うちでは力を出せない。逆に、期待していなかった人が、置き場所を変えた途端に別人のように動き出す。
経営をされている方なら、どれも心当たりがあると思います。
そしてもう一つ、能力を見る前の段階に、見落としやすいものがあります。
自分が何を探しているか。
それが決まった瞬間から、同じものを探している人が、向こうから近づいてきます。
これは私自身が、かなり高い授業料を払って学んだことでした。
一口1500万円。私はその話に、乗りたかった
独立して四、五年目の頃の話です。
会社員時代から副業で講師を務めていたセミナーがあり、その主宰者の方から声をかけていただきました。湖に面した土地に別荘を建てる、共同オーナーを募る、という話です。
総額3億円。20口に分けて、一口1500万円。
20人という人数は、募りやすい規模だったのだと思います。実際、活躍している講師仲間や、主宰者の友人知人の名前も挙がっていました。
投資ではありません。使うための別荘なので、性質としては消費です。
それでも、自分一人では3億円の別荘など想像もつかない。20人集まれば手が届く。
正直に言えば、私はワクワクしていました。
探し始めた瞬間から、見えるものが変わった
問題は、その1500万円をどう作るかでした。
当時、私は「夢や目標は他人に公言しろ」という教えを信じていました。だから、いろいろな人に話しました。こういう話が来ている、1500万円をなんとか前倒しで作りたい、何かチャンスはないか、と。
いま振り返ると、この時点で、私の目に映るものが変わっていました。
大きな金額の話しか、目に入らなくなっていたのです。
そして、こちらが出した気配には、同じ質のものが応じてきます。
私が探していたのは、大きなお金でした。
だから、大きなお金を探している人が、近づいてきたのだと思います。
出張先のホテルで、予定になかった人と会った
その頃、地方に出張する機会がありました。
秋口の午後でした。タワーマンションのロビー階にあるソファスペースで、ある実業家の方と打ち合わせをしていました。そこへ、その方が主宰する起業塾の受講生が一人、やってきました。
予定にあった相手ではありません。私の話が長引いて、次の打ち合わせの方が早めに到着してしまった、というだけのことです。
その方が、海外でリサイクルショップのフランチャイズを立ち上げようとしていました。
話の流れで、私の状況も伝えました。そうしたら、まずは海外進出のところでコンサルとして入ってほしい、という話になった。
半年ほど、月額の報酬をいただきながら、知恵を貸しました。
そして半年が過ぎた頃、今度は不動産開発の会社を作りたい、という話が出てきます。何人かで共同オーナーになる。私も声をかけられ、有能な経営者を探して引き合わせもしました。
私が惹かれた三つのこと
当時、私がその方に惹かれていたのは、はっきりしています。
話のスケールが大きいこと。フットワークが驚くほど軽いこと。そして、いわゆる大物と言われる人の懐に飛び込むのがうまいこと。
この三つでした。
目先の1500万円が作れそうで、規模の大きなビジョンを持つ経営者と出会えて、しかも海外なので外貨も稼げるかもしれない。
私の欲望が、いくつも重なっていました。
だから、裏側が見えなかった
見えていなかったものが、三つあります。
一つは、日本での事業実績が、実はほとんどなかったこと。おそらく日本でうまくいかず、起死回生を狙って海外に出ていたのだと思います。
二つ目は、時間に非常にルーズだったこと。当時の私は「忙しいのだろう」で片づけていました。
三つ目が、いま思えば一番大きいのですが、書面が一切なかったことです。
土地開発の話に、条件を書き留めたメモの一枚もない。すべて口頭でした。あちらの要人が気に入ってくれている、基本的に了承をもらっている。そういう話の組み立て方です。
自分の経験が、そのまま油断になっていた
なぜ、書面がないことを不自然だと思わなかったのか。
映画の世界では、口頭で企画が動くことが珍しくないからです。
業界のプレイヤーは限られていて、お互いの顔が見えています。実績も追える。裏切れば次がない。だから、書面がなくても回っていました。
私はその感覚を、そのまま持っていきました。
けれど、初めて会う相手との海外の不動産開発で、書面がないというのは、まったく別の意味を持ちます。
私が持ち込んだのは、業界の慣習でした。
持ち込めなかったのは、その慣習が成り立っていた前提のほうです。
自分の経験が、そのまま油断になっていました。
その後
新会社のために振り込んだ出資金と活動費用は、資金繰りに窮していた別の事業のほうへ回され、そのまま焦げつきました。数百万円規模です。
1500万円は、作れませんでした。
別荘は、予定通り完成しました。
内覧式は土曜日でした。共同オーナーになる方々と一緒に建物を見て回り、そのあとみんなで昼食をとりました。
本当に、細部まで作り込まれていました。
洗面台は一流ホテルで使われているものが入り、家具も上質なものが揃えられていました。私自身も使う予定でしたから、要望も聞いていただいていて、浴室からは湖を眺めながら熱燗が飲めるようになっていました。
自分の居場所が、そこに作られていました。
日曜を挟んで、月曜の午前中に、主宰者の方へ電話をかけました。
恥を忍んで、経緯をすべて正直にお話ししました。海外の事業で資金を失ったこと。1500万円を用意できないこと。今回は辞退させていただきたいこと。
その方は深く同情してくださり、それまでにお預けしていた手付金を、全額返してくださいました。
誤解のないように書いておきますが、別荘の話は本物でした。その建物はいまも、湖のほとりに建っています。
話が怪しかったのではありません。
私が、急いだのです。
失ったのは、数百万円と、二年近くの時間でした。
お金のほうは、まだ取り返しがつきます。
時間のほうは、戻りません。
いま振り返れば、この時期には他にもいくつか兆しがありました。ただ、それはまた別の回に書きます。
長所と短所は、別のものではありません
後に九星気学を学んで、最初に腑に落ちたことがあります。
気学が見ているのは、その人の能力ではない、ということです。
見ているのは、その人がどう動く人か。どこで力が出て、どこでつまずきやすいか。前に出ると伸びる人なのか、支えに回ると力を発揮する人なのか。
そして、ここが肝心なのですが、長所と短所は別々に存在していません。
同じ性質の、表と裏です。
私が惹かれた三つは、全部「表」だった
たとえば、直感と感受性が強く、雷に打たれたように即行動する星があります。若いうちから才能を開花させ、人気者になりやすい。時にスター的な存在になる。
その裏側はこうです。
感性に従いすぎて気が移りやすい。途中でやめる。あちこち迷って、本当は何がしたいのか分からなくなる。華やかな場所にいるうちに、地に足がつかなくなる。
並べてみると、同じことを言っています。
直感が強い ←→ 気が移りやすい 思い立てば即行動 ←→ 未完了や食い散らかしが増える 若くして人気者 ←→ 地に足がつかない スター的な存在 ←→ 虚飾や虚栄の誘惑におぼれやすい
私が惹かれた三つは、全部この左側でした。
スケールが大きい。フットワークが軽い。大物の懐に飛び込むのがうまい。
そして私が見なかったのは、まったく別のものではありません。
同じ性質の、反対側だっただけです。
書面が一枚もないという状態を、私は「大胆さ」の一部として受け取っていました。あれは同じ性質の裏側が、そのまま形になったものでした。
だから、置き場所の話になります
ここから導かれる結論は、意外なほど実務的です。
人を変えようとしない、ということ。
短所を直させるのではなく、その性質の表が出る場所に置く。裏が出にくい仕事を任せる。
先ほどの星の人であれば、新しいものを立ち上げる場面、人の前に立つ場面では圧倒的な力を出します。一方で、長期にわたって同じ精度で回し続ける役割は向いていません。
能力の問題ではないのです。置き場所の問題です。
短所は、置き場所を間違えた長所である。
私はそう考えています。
組み合わせにも、同じことが言えます
もう一つ、当時の私に見えていなかったことがあります。
私は六白金星、その方は三碧木星でした。
五行で言えば、金が木を剋する関係にあたります。実務の感覚で言うと、話が噛み合わないことが多い組み合わせです。
ただ、これは「組むな」という意味ではありません。
間に水の性質を持つ人を置けば、金から水へ、水から木へと流れができます。人間関係を取りまとめてくれる、調整役にあたる人です。
あのとき、そういう人を一人置いていたら、結果は違っていたかもしれません。
組むべきでなかったのではない。
媒介を置かなかったことが、問題だったのです。
経験にも、同じことが言えます
そしてもう一つ。
映画業界で培った「顔が見える相手とは口頭で進める」という感覚は、あの業界では確かに長所でした。話が速く、信用で動ける。
けれど場所を移した瞬間に、それは盲点になりました。
置き場所を間違えれば、経験でさえ短所になる。
人の性質も、組み合わせも、自分自身の経験も、同じ構造をしています。
出したものに、同じものが応じてきます
もう一つだけ、当時の私について書いておきます。
村山幸徳先生は、まず自分から生気を出しなさい、と教えられました。自分がどう生きたいのかを先に放てば、それに呼応して活気が返ってくる。この二つを併せて「生活」と言うのだ、と。
あの頃の私が放っていたのは、生気ではありませんでした。
欲でした。
だから、応じてきたものも、同じ質のものだったのだと思います。日本でうまくいかず、新天地で一山当てようとしていた人。私と同じように、大きなお金を探していた人です。
人を見る目が曇っていた、というより。
曇った目でしか見えない場所に、自分から立っていました。
いまは、これが判断の軸になっています
経営者の方からチーム編成のご相談を受けるとき、私が見ているのはここです。
その人の星が持つ表と裏。いまいる場所で出やすいのはどちらか。誰と誰の間に、媒介が要るのか。
そしてもう一つ、あの経験から決めたことがあります。
私は、報酬の額でお引き受けするかどうかを決めない、ということです。
売上が伸びていて、報酬も十分に払っていただける。それでも、社内の空気が明らかに歪んでいる会社があります。人が萎縮していたり、誰かが誰かを押さえつけることで回っていたり。
そういうご依頼は、お断りするようにしています。
立派なことを言いたいのではありません。
報酬の大きさで判断すると、また同じことが起きるからです。あのとき私は、金額の大きさに引かれて、その裏側を見ませんでした。同じ構造を、仕事の選び方でも繰り返すわけにはいかない。
あの頃、私は東京に住んでいました。いまは会社の拠点だけを東京に残したまま、福岡県の糸島に移っています。方位を見て選んだ場所です。
世田谷から横浜へ移ったときは、方位という発想すらありませんでした。糸島へ移るときは、時期も方角も先に確かめました。同じ引っ越しでも、まったく別のことをしています。
窓の外に海が見えるのは、あの頃と変わりません。ただ、ここへ来るまでに払ったものが、いくつかありました。
高い授業料を払って身につけた、たった一つの補助線です。
姉が取締役で、妹が社長でした
ご相談を受けた方すべてのその後を、存じ上げているわけではありません。ですので、これは私が知り得た範囲の話です。
冒頭の女性経営者の会社は、姉妹で経営されていました。姉が取締役、妹が社長です。
二期連続の赤字ですから、数字には当然、問題がありました。
ただ、私はそこには手を入れませんでした。
すでに別のコンサルタントの方が入られていて、収支の立て直しについては具体的な助言を進めておられたからです。そこへ私が別の方向から数字の話を始めれば、船頭が二人になります。
経営者にとって、これほど困ることはありません。どちらの言うことを聞けばいいのか分からなくなり、結局どちらも中途半端になる。
ですので、私がお話ししたのは、その方が扱っていない領域に絞りました。
人の配置です。
誰が前に出て、誰が支えているのか。その人の力が出る場所に、その人がいるのか。
見えてきたのは、単純な構造でした。
家族の序列が、そのまま会社の配置になっていたのです。
姉が上で、妹が下。生まれた順番が、そのまま役職の順番になっている。
これは、家族経営では珍しいことではありません。誰かが間違ったわけでもない。ただ、配置を決めている基準が、会社の論理ではなかった、というだけです。
お伝えしたのは、大きく三つでした。
役員の配置を組み替えること。職務規定を、一人ひとりの本質が活きる形に変えること。そして経営者ご自身にも、住まいを動いていただくこと。
どれも、勇気のいる決断だったと思います。特に、家族の配置を変えるということは、会社の話であって会社の話ではありません。
それでも、その方は一つずつ実行されました。
二年後、決算は大幅な黒字に転じました。
何がどれだけ効いたのかは、正直なところ分かりません。別のコンサルタントの方の助言もありましたし、市況の変化もあったはずです。
ただ一つ言えるのは、あの方が全部、実行されたということです。
あの晩、小料理屋で「どうやって手を付けたらよいのか」と言われたところから、その方は動き始めました。
あなたがその人に惹かれたのは、どんなところでしたか。
その裏側を、あなたは見ましたか。
人の配置に迷いが出たとき、外側から補助線を引く視点があると、判断が変わることがあります。
公式LINEでは、経営判断に使える時流の読み方をお届けしています。
よくある質問
相性が悪い人とは、組まないほうがいいのですか
そうは考えていません。噛み合いにくい組み合わせは確かにありますが、それは「組むな」ではなく「間に何が要るか」を教えてくれる情報です。調整役を一人置く、直接のやり取りを減らす、役割の境界をはっきりさせる。打てる手はいくつもあります。相性を、組む相手を選別する道具として使うと、選べる人がどんどん減っていきます。
短所は直せないのですか
直そうとすること自体は否定しません。ただ、長所と短所が同じ性質の表裏である以上、短所を消そうとすると長所も一緒に薄くなります。フットワークの軽さを保ったまま慎重さだけを足す、というのは簡単ではありません。それよりも、その性質の表が出る場所に置くほうが、本人にとっても組織にとっても早い。足りない部分は、別の性質を持つ人に補ってもらえばよいのです。
自分に足りない部分を、人でどう補えばいいですか
経営者ご自身が、すべての性質を持つ必要はありません。というより、持てません。前に出る力が強い方は、細部を詰める役割が手薄になりますし、慎重に整えるのが得意な方は、外へ広げる場面で止まりがちです。足りない部分は、その性質を持つ人に担ってもらう。ご自身を変えようとするより、誰に何を任せるかを決めるほうが、組織としては確実です。ただ、何が得意で何が手薄かは、これまでのキャリアによって形づくられている部分もあります。ご自身の実感だけで判断せず、最終的には生年月日から読み解くことをお勧めします。